新潟大学工学部建設学科岩佐研究室

新潟の公共空間に関する調査・研究・提案

 広く一般に開放されている空間での人々の振るまい方は,どんどん変化しています.以前にジベタリアン(路上で堂々と座り込み,くつろぐ若者)などが注目されましたが,今ではごく日常の風景になっています.昔は忌避されていた,人前で食事や化粧をすることも,今では普通に行われるようなっています.
 こうした事の背景には,個人や集団の他者に対する距離感が変質していることや,携帯電話,モバイル型コンピュータなどの普及が公共空間の中で人の居方を変えたことが考えられるでしょう.また,過去の調査では私的な行為は逆に住居内ではなく,公共空間に表出する(プライベートスペースの外在化)という興味深いデータもありました.
 公共空間が多様に使われる事は,町を魅力的にして行く上で重要な事ですが,一方で一部特定に寡占される事は公共空間のあり方として良いこことはいえません.多様な行為を受け入れつつ多くの人にとって開かれた環境を如何に提供するか.これにはソフト,ハード両面から検討して行くべき事があるでしょう.
 論文【1】では,新潟の代表的な公共空間を対象として,そこでの個人の振る舞いとその許容度に関して,アンケート調査を行いました.また,論文【3】では古町モール内で,人が滞留するきっかけになっている領域のセッティングを「襞」と命名し,そこでの人の振る舞いに関して研究しました.論文【13】では古町モール内に供されている着座空間を実際に座ってもらう(+飲み食いをしてもらう)実験調査を通して,【28】では古町モール内で実際に写真を撮影してもらう調査を通して,公共空間での振る舞いとそれを可能にする要因について考察しました.論文【10】では,公開空地でオープンカフェを実施し,滞留可能な公共空間をいかに作り出すか検証しました.

郊外居住環境に関する調査・研究・提案

 特に郊外ニュータウンに注目しています. 高度成長期以降の‘計画された’居住環境の典型であると考えるからです.郊外ニュータウンは決して評判の良いものではありません.神戸の酒鬼薔薇事件の際も,大規模に開発され無機的な印象を与える郊外ニュータウンの居住環境と,事件との因果が語られたりしました.しかし,30年以上前に大阪千里に郊外ニュータウンが誕生して以来,郊外ニュータウンは多くの人が生活成長してきた環境です.こうした住環境をおしなべて否定的に評価するのではなく,経年変化の中でどの様な可能性が発芽してきたのかを検証するのことを主眼において研究を進めています.
 論文【4】では,新潟市の古い郊外住宅(郊外ニュータウンとはちょっと違う)を対象とし,開発後の車社会化で各住戸がどの様に変容したかを中心に検証しました.また,岩佐は博士論文で千里ニュータウンと同時期に開発された秋田県大潟村の干拓集落(究極のニュータウン)を対象とし,30年の居住の中でどの様に居住者が居住環境を改編していったのかを調査しました.


論文【11】では郊外の主要な移動手段である自動車に注目し,車内空間の居室化という視点から,郊外におけるライフスタイルの変容と,住居(や個人)と(郊外の)都市との関係性の変質について明らかにしようとしました.論文【14】は論文【11】を発展させ,郊外で起きている住居と都市が自動車で結ばれ,まるでひとつながりの空間のように連続している状況を「インドア郊外」と名付け,「一見便利だが豊かではない生活環境」を指摘しました.今後はこのインドア郊外が形成されてきた過程や,インドア郊外化が進む一方でその外側に取り残された地域(地元商店街など)の現状などについても考察を進めて行く予定です.また,郊外ではありませんが中心市街地においても,自動車移動重視の生活が持ち込まれることで,町自体が変質してしまっている現象(中心市街地の郊外住宅化)にも注目しています.(論文【24】)
 日本の住宅事情を鑑みると,家を建てるという行為は一生で何度もない大変な事業です.当然クライアントの強い思い入れが住宅内部にとどまらず,その外側まで表出することもあり得ます.研究【15】は,ニュータウンのアプローチ空間のカスタマイズ(居住者による手入れ)に注目し,こうした思い入れの表出がニュータウンにそのような表層を形成しているかを明らかにしました.また,研究【16】は,ニュータウンの中で一定数存在するログハウスを対象とし,個性派住宅の誕生と居住者の住宅イメージを明らかにし,「日常生活のテーマパーク化」という現象を指摘しました.こうした,居住者の強い思い入れは,ニュータウンの現在の風景を形成している要因ではありますが,決して否定できるものではありません,「家への愛着」,「町への愛着」をいかに良好な居住環境の醸成につなげていくかが今後の研究の課題です.

新潟の水辺空間に関する調査・研究・提案

 新潟の水辺空間,特に信濃川下流域は大きく変化しようとしています.柳都大橋,みなとトンネル,ときめっせ,新潟歴史博物館(みなとぴあ),NST新社屋など人々を信濃川に目を向けさせるものが続々と誕生しており,水際をどの様にデザインしていくのかは,今後多くの議論を呼ぶことになるでしょう.この研究はこうした議論に供することの出来るデータの蓄積を目指すものです.論文【20】は,重要文化財に指定された萬代橋が,周辺河岸の公共空間からどのように見えているかを分析したもので,今後の萬代橋周辺環境のデザインを検討していく上で,基本資料となる研究です.論文【19】は,信濃川下流域の連続立面図を制作し,視対象と視点場をトータルにデザインする可能性を検討したものです.いずれの研究もまずベースとなるデータが揃った段階で,今後はこれを如何に共感の出来るものとして社会にプレゼンテーションしていくのか,また,どのようにしてデザイン提案に結びつけていくのが課題となっています.

人間の知覚や行動を起点とした都市・地域環境の記述・評価

自分の町の良さを伝えるには,どうしたら良いでしょう.また,自分の住んでいる町と他の町を比較するにはどうすれば良いでしょうか?この研究は,こうした興味を起点としています.
 行政の発表している資料を見ると,人口密度,一人あたりの住居面積,車保有数,持ち家率,店舗数,平均収入など様々な統計学的資料でその町に住んでいる人の生活を客観的に表現しようとしています.しかし,こうしたデータで果たして,実際の生活の価値は表現できているのでしょうか?実際にそこで生活している人の視点に立って都市・地域環境を記述・評価するのがこの研究の目標です.
 論文【6】では,古町モール内のサインの認知度を,実際にそこを歩いていく中で探すという調査を通して評価しました.また,論文【7】では,都市の「ゆっくりしている」,「はやい」といった感覚に対する興味をきっかけとして,往来のスピード感を実踏を通して比較するという調査を行いました.論文【12】では町でたたずんでいる人など,そこに居る人をも景観要素として扱う事で場所らしさを評価する事を試みました.論文【10】で用いた「100を数える」行為から居心地を探る調査や,論文【13】や【28】で試みた被験者に現地で実際に飲食体験や撮影行為をしてもらう調査などもいかに実感に近い形で環境を評価するかという問題意識に立っています.

従来の建物種別にとらわれない都市空間の使い方とそれを支える仕組み

 設計者や行政の意図と異なった使われ方をしている場所は沢山あります.展望する場所だったはずのりゅーとぴあの展望ラウンジは,高校生の自習スポットだし,本を借りる以外の目的で図書館に行く人は多いし,銭湯が地域高齢者の居場所になっているという話は良く聞きます.用事はないが,とにかくコンビニに行くことが習慣になっている人もいるでしょう.こうした使われ方の背景にあるのは,施設の計画が,図書館,学校,保育所,幼稚園,公民館,高齢者施設,病院といった,建物種別毎の旧態依然とした計画で進められている一方で,人々の生活自体が変質してきていることが考えられます.(当然 せんだいメディアテーク のように,従来的な枠組みを越えようとした計画も沢山でてきています.)
 新しい場所には発見があります.研究室では,変わった使われ方や運営がなされている場所を探し,その使われ方や運営の仕組みから学ぶ試みを行っています.

水害・震災復興に関する調査・研究・提案・実践

 2004年は,7.13水害,中越震災と立て続けに震災に新潟が震災に襲われた一年でした.災害では多くの人が住居を失い,仮設住宅住宅での生活を余儀なくされています.仮設住宅地はあくまで暫定的な居住環境ですが,家を失うという危機的環境移行を経て,新たに生活を立て直す基盤となる環境です.建築として何が支援できるのかを実践を念頭に置いて研究を進めたいと考えています.
 論文【21】【24】では,仮設住宅地でオープンカフェを開き,居住環境支援と調査を同時に行う「交流型調査」を行いました.

 論文【30】では,仮設住宅での2年間で蓄積された生活の知恵のようなものを記録することを試みました.
 論文【40】【45】では,2007年の中越沖地震の震災仮設住宅を対象として,居住者の周辺地域の利用様態から,仮設住宅居住環境を評価しました.

都市・建築に関わる情報技術

 建築計画の大きな軸の一つは,人と人の関わり,コミュニケーションです.学校建築や住宅地,公共施設に関する研究の多くがその研究の最終的な目標としていることは,その場のコミュニケーションの質の向上です.これは空間の形態やそこでのしつらえ,プログラムといった,いわゆる建築のデザインというものが,そこでのコミュニケーションを決定づける有効な手段だと考えられてきたからでしょう.
 翻って昨今の情報技術(IT)は建築空間以上にコミュニケーションの様態を変化させています.今,コミュニケーションに関して最も実効性が高いのはおそらく情報技術でしょう.建築計画がコミュニケーションを対象とする限り,情報技術もデザインにおいて念頭に入れておくべきものであるといえるでしょう.また,情報空間のデザインは本来建築家が積極的に乗り出すべき領域かも知れません.
 これが,最近私が情報技術に興味を持っている最大の理由です.自分自身もまだまだ良くわからない領域ですが,実感できる(絵空事でなく現実化している)ことから少しずつ研究を進めて行きたいと考えています.研究室でも,携帯フォトメールを活用したワークショップや,キーワード共有型の研究室BBSなど,いろいろな試みを行いつつあります.